2026年7月28日
老後2,000万円で足りる?「毎月の不足額」で持つ年数を計算してみた
「老後には2,000万円」。この言葉、どこかで一度は目にしていると思います。
先に結論を置きます。2,000万円は、あなたに必要な貯金として計算された金額ではありません。ある年の平均的な高齢夫婦の赤字を、30年ぶん足しただけの数字です。
だから、足りるか足りないかを決めているのは、手元の総額ではないんです。年金と生活費の、毎月の差額のほう。
この記事では、その数字の出どころをたどって、家計の言葉に置き直します。読み終わるころには、確かめる場所が通帳から毎月の差額へ動いているはずです。
老後のお金が気になりはじめたけれど、どこから手をつければいいのか決まりません。そういう段階の人に向けて書きました。
その2,000万円は、誰の家計から出てきた数字?
たどっていくと、金融庁の審議会が2019年6月に公表した報告書に行き着きます。その中身が、拍子抜けするほど単純でした。
当時の統計で、65歳以上の無職の夫婦世帯は、毎月およそ5.5万円の赤字。その状態が30年続いたら、合計はいくらになるか。
毎月の赤字 約5.5万円を12か月ぶん、それを30年ぶん積み上げます。答えが、約2,000万円です。
必要額の目安ではなく、平均の赤字を30年ぶんまとめた合計。それがこの数字の正体でした。もとになる赤字額が動けば、合計のほうも動きます。
引っかかるのは、5.5万円が「平均」だという点です。平均の内側には、赤字がもっと小さい家も、もっと大きい家も並んでいます。自分がどこに立っているかは、この数字からは見えません。
ところが世の中に残ったのは、総額のほうだけでした。かけ算のもとになった月々の数字は、ほとんど読まれていません。
僕自身も、長いあいだこの数字を「貯まらなければ終わり」の合図として受け取っていました。総額だけを見て、そこで考えるのをやめていた時期があります。
足りるかどうかは、総額ではなく毎月の差額で決まる
では、いまの平均はどうなっているのか。同じ総務省の家計調査で、いちばん新しい数字を見ておきます。
いまの平均では、毎月いくら足りない?
約4.2万円
65歳以上の夫婦のみの無職世帯/総務省「家計調査」2025年平均(2026年2月公表)
1日に割ると、約1,400円。夫婦でお茶を一杯ずつ飲むくらいの穴が、毎日あいていく計算になります。
この4.2万円も、さきほどの5.5万円と同じで平均です。持ち家か賃貸か、年金がいくら入るかで、家ごとにばらけます。
平均は入口としては便利ですが、そのままあなたの答えにはなりません。そこで、条件を固定した夫婦を1組つくって、差額だけを動かしてみます。
今回の架空モデル
この記事の中だけで使う、仮の夫婦です。
- 65歳で仕事を終えた夫婦2人。持ち家で、住宅ローンは完済
- 手元の資産は2,000万円
- 年金は手取りで月22万円
- 生活費は月26万円(差額は毎月4万円)
運用の利回り、物価の上昇、介護などの臨時の出費は、いったん外して計算します。
※制度や選択肢を比べるための架空の条件です。実在の人物・数値ではありません。
この2,000万円を、差額のぶんだけ毎月取り崩したら、何年もつのか。税金も運用も物価も外した、割り算だけの結果を並べます。
差額(不足額)は、月3万円から月12万円まで6段階で置きました。どの行でも、手元にあるのは同じ2,000万円です。表は右の列だけ追ってください。
| 毎月の不足額 | 2,000万円がもつ年数 |
|---|---|
| 3万円 | 約55年(120歳まで) |
| 4万円 | 約41年(106歳まで) |
| 5.5万円 | 約30年(95歳まで) |
| 8万円 | 約20年(85歳まで) |
| 10万円 | 約16年(81歳まで) |
| 12万円 | 約13年(78歳まで) |
同じ2,000万円なのに、月3万円なら120歳まで届き、月12万円なら78歳で尽きます。動かしたのは差額だけ。総額は一円も変えていません。
差額が1段ふえるたびに、右の年数はどれだけ縮むのか。上から下へたどると、その落ち方が見えてきます。
2,000万円は、答えではなく、誰かの平均から出てきた途中式です。
もうひとつ、逆からも確かめておきます。差額は、年金の側だけでなく、生活費の側からも動かせるからです。年金の手取りは月22万円に固定したまま、暮らし方を3つに分けてみました。
| 暮らし方 | 毎月の生活費 | 差額 | 2,000万円がもつ年数 |
|---|---|---|---|
| 切りつめる | 24万円 | 2万円 | 約83年 |
| 標準 | 26万円 | 4万円 | 約41年(106歳まで) |
| ゆとりを持つ | 30万円 | 8万円 | 約20年(85歳まで) |
生活費が月24万円か、月30万円か。その違いだけで、もつ年数は約83年から約20年まで動きました。
「2,000万円で足りますか」という問いに、そのまま答えられない理由がここにあります。足りるかどうかは、貯めた側ではなく、入る側と出る側の差で決まっているからです。
この計算が当てはまる人、前提を置き直す人
差額で考える型が、そのまま使えるのはどんな人か。先に線を引いておきます。
当てはまりやすいのは、厚生年金に入って働いてきて、住まいの見通しも立っている人です。上の表と同じ形に、自分の数字を置き換えられます。
反対に、前提のほうから置き直したいケースが3つあります。
- これからも賃貸で暮らす人 … この統計では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯のうち95.5%が持ち家です。家賃はまるごと外にあります
- 国民年金が中心の自営業・フリーランス … 年金の手取りが月22万円という前提から動きます
- 介護・医療・住まいの修繕など、まとまった支出が控えている人 … 毎月の差額だけでは間に合いません
線を引くのは、あきらめてもらうためではありません。どの前提の上で計算しているかが分かれば、直す場所も自然に決まってきます。
差額で見る型に慣れると、その先に別の問いが出てきます。では、いくらあれば十分なのか。
ぱぱん
残高だけを眺めていると、数字はいつまでも足りない気がしてくるんですよ。僕が先に見るのは、月にいくら出て、いくら入ってくるか。その差だけなんです。……順番が逆かもしれない、とも思っていて。いくらあれば十分なのか、を先に決める。急がない数字もあります。
その差額を埋める手段として、僕は高配当・インカムを重視した積み立てを続けています。残高を削って減らしていく形より、毎月入ってくる形のほうが落ち着きます。そういう性分なんです。
ここは正解ではなく、僕が選んだ形にすぎません。値上がりを取りにいく形のほうが合う人もいます。
ここで止まりやすい、3つの質問
ひとり暮らしなら、いくら足りないんですか?
同じ統計の単身無職世帯(65歳以上)は、手取りの収入が月118,465円、生活費が月148,445円でした。差額は月29,980円です。夫婦の月42,434円より小さいものの、住まいが賃貸なら、ここに家賃が乗ります。
ひとり暮らしのほうが差額は小さくなります。ただし収入も生活費も一人ぶんなので、夫婦の表をそのまま半分にはできません。
自分の差額は、どうやって出すんですか?
紙とスマホの電卓があれば、5分で出せます。手順は3つ。
- 今の毎月の支出に0.7をかけて、老後の生活費を見積もる
- ねんきん定期便かねんきんネットで、年金の手取りの見込みを確かめる
- 1から2を引く。残りが、あなたの毎月の差額
現在の毎月の支出を37万円と置く仮の夫婦なら、37万円 × 0.7 ≒ 26万円。そこから22万円を引いて、月4万円になります。
なお「×0.7」は公的な基準ではなく、この記事だけの仮置きです。家賃が老後も続く人なら0.8〜0.9で置くなど、自分の事情に合わせて動かしてかまいません。
大事なのは、数字の正確さではないと思っています。総額から差額へ、見る場所を一度だけ切り替えます。それだけで、確かめる相手が他人の平均から自分の家計に変わります。
物価が上がったら、この年数はどうなりますか?
短くなります。上の表には、物価の上昇も、運用の利回りも、税金や手数料も入れていません。生活費だけが上がっていけば差額は広がり、年数は表より手前で止まります。
逆に、差額を縮める手もあります。働く年数を少し延ばします。生活費を月1万円だけ動かします。総額を追いかけるより、打てる手は近くにあります。
持ち帰るのは、この3つ
- 2,000万円は必要額ではなく、平均の赤字を30年ぶん足した合計(金融庁の報告書・2019年6月公表)
- 足りるかどうかを動かしているのは総額ではなく、年金と生活費の毎月の差額
- 自分の差額は、今の支出×0.7から年金の手取り見込みを引けば出る
他人の平均を、自分の差額に置き換えます。老後のお金の話は、そこから始めてもいいと思います。
なお、ここまでの数字は2026年7月に確かめた時点のものです。統計も制度も、これから更新されていきます。前提が変われば答えも変わる——それも含めて、差額という見方だけは残ると思っています。
出典・計算方法
数字の出どころと、計算に入れていないものです。
- 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月公表)。「毎月約5.5万円の不足×12か月×30年≒約2,000万円」の出どころで、元データは総務省家計調査2017年です。
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均」(2026年2月公表・2026年7月参照)。夫婦のみの無職世帯(65歳以上)の不足額は月42,434円、単身の無職世帯は月29,980円、持ち家率は95.5%。本文でいう「手取りの収入」は統計の可処分所得(収入から税金と社会保険料を引いた、使えるお金)、「生活費」は消費支出にあたります。
- 「2,000万円がもつ年数」は、2,000万円 ÷ 毎月の不足額 の割り算だけで出しています。運用益・物価変動・税金・手数料・臨時の支出は入れていません。1日あたり約1,400円は、月4.2万円を30日で割った概算。0.7という係数は本記事だけの仮置きで、公的な基準ではありません。
- 統計も制度も更新されます。ここに書いた数字は、将来を保証するものではありません。運営者情報と免責は運営者情報にまとめています。